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名月 [俳句]

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 九月二十一日は旧暦の八月十五日、一年中で一番美しいとされる名月の日です。しかも、国立天文台の情報によると今年は満月と中秋の名月が八年ぶりに重なりました。
 月は約15日周期で新月から満月に、そして満月から新月になります。したがって、新月から15日目に当たる夜(旧暦の十五日)が十五夜・満月と考えられていました。しかし、実際には月の満ち欠けは季節によって左右され、新月から満月になる日数は13.9日~15.6日(平均は14.76日)とかなり差があります。そのために十五夜の前後に満月になることも多く、十五夜が必ずしも満月になるとは限らないそうです。

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名月に噯あやまるコカコーラ 粋田化石


 噯(おくび)は曖気(あいき)・げっぷのことです。名月ですので昇りたての黄色い月の写真を撮りたかったのですが、私はとある道の駅に車を止めてコーラを飲みながら黄色い月を眺めていました。その時にげっぷが二回。月に謝ったという訳です。

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画像はフリー素材です


名月や出くわす庭の洗い熊 粋田化石


 我が家の周辺には野生のアライグマが生息していて頻繁に出くわします。月を見に庭に出たらアライグマに出会ったという句です。空を見て月が二つ出ていれば狸だったのかもしれませんが、月は一つでしたので出くわしたのはアライグマです。


【 名月 めいげつ 】  明月(めいげつ) 望月(もちづき) 満月 今日の月 月今宵(つきこよひ) 三五の月 十五夜 芋名月  (季秋)
旧暦八月十五日の月である。一年中でこの月が最も澄んで美しいとされる。秋草や虫の音、夜露や秋風など、風物のたたずまいが一層月を明澄にする。穂芒(ほすすき) を挿し、月見団子や新芋などその年の初物を供えて月をまつるのは、収穫を祈る農耕儀礼の遺風である。↓良 (角川合本俳句歳時記第四版)
しみ々と立ちて見にけりけふの月 鬼貫
名月や池をめぐりて夜もすがら 芭蕉
名月や畳の上に松の影 其角
名月をとつてくれろと泣く子かな 一茶
名月や笛になるべき竹伐らん 正岡子規
名月や故郷遠き影法師 夏目漱石
名月や門の欅も武蔵ぶり 石田波郷
名月や洗ひ伏せたる日々のもの 村松紅花
満月や耳ふたつある菓子袋 辻田克巳
満月の闇分ちあふ椎と樫 永方裕子
けふの月長いすゝきを活けにけり 阿波野青畝
十五夜や母の薬の酒二合 富田木歩
十五夜の雲のあそびてかぎりなし 後藤夜半

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昭和の車 [俳句]

 BS朝日に『昭和の車といつまでも』という番組があります。同じ車に三十年以上乗り続ける持ち主を訪ねて、その人と所有する車を紹介します。私はその番組が好きでよく見ているのですが、ある日いつものようにその番組を見ているときに傍にいた息子が「この人優しそうな顔をしている。」と言いました。
 なるほど、息子に言われてそうゆう視点で見てみると、確かに同じ車に三十年以上乗り続けるドライバーたちは皆さま優しく素敵な顔をされています。私は車だけ見て人は見ていなかったのですね。そうして更に気づいたのですが、その古い車を整備・修理してくれる整備士たちも素敵な表情をしていました。古いものを大切にされる方のお顔はどこか違うのですね。

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三十年を一つハンドル巡る秋 粋田化石


 三十年(みそとせ)の間同じハンドルを握ってまた秋が巡ってきた、という句です。ハンドルなので巡るにしてみました。

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三角窓佛顔にも素風かな 粋田化石


 まだ自動車にダクトや強制送風ファンがなかった時代、自動車についている小さな三角窓を開閉して室内の換気を行っていました。
 素風というのは色の無い風、つまり秋の風のことです。秋らしい晴れた日、古い車の三角窓の奥の優しい顔にも秋の風が吹いているという句です
写真がないと自動車の三角窓だとわからない句でした。


【秋風 あきかぜ】  秋風(しうふう)  秋の風  金風(きんぷう)  素風 色なき風  爽籟(さうらい)  (季秋)
秋の訪れを告げる「秋の初風」から、晩秋の蕭条(しようじよう)とした風まで、秋の風にはしみじみとした趣がある。秋風は古来西風とされてきたが、実際には特に定まった方角はない。金風・素風は、陰陽五行(ごぎよう) 説で、秋は五行の金にあたり、色は白を配するところからきた語。色なき風は華やかな色が無い風の意で、漢語である「素風」を歌語にしたもの。(角川合本俳句歳時記第四版)
秋風の吹きわたりけり人の顔 鬼貫
あかあかと日は難面(つれなく)も秋の風 芭蕉
石山のいしより白しあきの風 芭蕉
物言へば唇寒し秋の風 芭蕉
秋風やしらきの弓に弦はらん 去来
十(とを)団子(だご)も小粒になりぬ秋の風 許六
釣鐘に椎の礫や秋の風 几董
淋しさに飯をくふなり秋の風 一茶
あきかぜのふきぬけゆくや人の中 久保田万太郎
死骸(なきがら)や秋風かよふ鼻の穴 飯田蛇笏
秋風や模様のちがふ皿二つ 原石鼎
ひとり膝を抱けば秋風また秋風 山口誓子
秋風や殺すにたらぬ人ひとり 西島麦南
吹きおこる秋風鶴をあゆましむ 石田波郷
秋風や柱拭くとき柱見て 岡本眸
秋風を二三歩追へり見送れり 神蔵器
どこからも川現はるる秋の風 廣瀬直人
髑髏みな舌うしなへり秋の風 高橋睦郎
もういちど吹いてたしかに秋の風 仁平勝
檻の鵜も鵜籠も秋の風の中 島谷征良
肘あげて能面つけぬ秋の風 小川軽舟
籠らばや色なき風の音聞きて 相生垣瓜人
山荘のけさ爽籟に窓ひらく 山口草堂

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Le magnifique [日記]

 
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 昼間携帯電話を開いたらフランスの俳優ジャン-ポール ベルモンドが亡くなったというニュースが目に飛び込んできました。
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 少年の頃『華麗なる大泥棒』というベルモンドが主演する映画を見て彼のファンになり、以来50年間ずっと彼を追いかけてきました。ベルモンドもすでに88歳でしたので覚悟していましたが、とうとうこの日が来てしまいました。

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本日の題名『Le magnifique』はベルモンドの訃報に寄せたフランスのマクロン大統領の言葉です。実はこの言葉は、ベルモンドが主演した映画『おかしなおかしな大冒険』の仏名で、直訳では“壮大な”という意味になりますが、“偉大な人”という意味で使っています。そうです、ベルモンドは私にとっても偉大な俳優でした。

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秋蟬も「つくづく惜しい」ベルモンド 粋田化石


秋蟬(しゅうせん)というのは秋になっても鳴いている蟬のことです。千葉県東部地方は久しぶりに晴れて気温も上がり秋らしい一日でした。ベルモンドの残念な報を知った時に蟬のツクツクボウシが鳴いていました。

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たましいを引留むやうに秋の蟬 粋田化石


秋の蟬、残る蟬というと、今までは先に逝ってしまった仲間のために鎮魂歌を歌っているという心象でしたが、今日は仲間の魂を引留めて鳴いているように聞こえました。

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【 秋の蟬 あきのせみ 】  秋蟬(しうせん) 残る蟬  (季秋)
蜩や法師蟬のように秋になって鳴き始める蟬もいるが、夏から引き続き鳴く蟬もまだ多い。↓蟬(夏) (角川合本俳句歳時記第四版)
秋の蟬たかきに鳴きて愁ひあり 柴田白葉女
川越えてしまへば別れ秋の蟬 五所平之助
遠き樹に眩しさ残る秋の蟬 林翔
師を恋へば城山に湧く秋の蟬 山田みづえ
喪の幕の端に風ある秋の蟬 岡本眸
磧湯(かはらゆ)の思はぬ熱さ秋の蟬 鳥越すみこ
秋蟬のこゑ澄み透り幾山河 加藤楸邨
秋蟬や島に古りたる神楽面 荒川優子

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圓生忌 [俳句]

ブログの更新を再開しました。

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「新米が馬鹿うまでげす」圓生忌 粋田化石

 以前にもこの記事で書いたことがありますが、落語家の六代目三遊亭圓生師匠は1900年(明治33年)の9月3日に生まれて、1979年(昭和54年)の9月3日に亡くなられました。落語中興の祖と言われ、現在止め名(野球でいう永久欠番)になっている三遊亭圓朝が亡くなったのが1900年の8月11日ですので、まるで圓朝の生まれ変わりのようです。
さて、私が落語好きになるきっかけにもなった師匠ですが、私は圓生師匠の噺(はなし)を生で聞くことはかないませんでした。

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 生前TVで拝見する師匠は「ばか旨(うま)」、「○○でげす」という古い言葉を使っておられました。そんな圓生師匠の言葉を真似て新米を詠んだのが最初の句です。
実は、六代目圓生師匠の落語の音源として全36巻のカセットテープの全集を持っていたのですが、カセットテープの再生が出来なくて長らく眠っていました。ところが最近息子からラジカセをもらい聞くことが出来るようになりました。嬉しいかぎりです。
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夜食かな圓生わきで茶を啜る 粋田化石


圓生師匠は座布団の横にお茶を置いて高座でよくお茶を飲んでおられました。お茶を置く置かないは個人の自由だそうです。映像で見ても録音で聞いてもかなりの頻度でお茶を飲んでいます。夜なべの時、夜食をとりながら圓生師匠の落語を聞いていたら、師匠の茶を啜る音が聞こえたという句です。夜食は秋の季語です。ちなみに、現在では十代目の柳家小三治師匠がよくお茶を飲まれています。

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【 夜食 やしよく】(季秋)
夜なべをすると空腹を覚えるので軽い食事を取ったりする。現在は残業している会社員や夜遅くまで勉強している受験生などがとる軽食をも指す。(角川合本俳句歳時記第四版)
所望して小さきむすび夜食とる 星野立子
夜食とる後姿の足重ね 福田蓼汀
あたたかき夜食の後の部屋覗く 能村登四郎
夜食には夜食の贅のありにけり 高浜朋子

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